「フェルマーの最終定理」新潮文庫 2006
非常に面白かったです!
数学にはこれまで全く興味なかったけど、ロマンあるなぁ。
フェルマーの最終定理とは、カンタンにざっくり言いますと、というかそのままですが、
x n乗+ y n乗=z n乗
nは3以上
の自然数の解は存在しない
というもの。
もともとはピタゴラスの直角三角形の定理
x 2乗 + y 2乗 = z 2乗
(直角三角形の斜辺の2乗はほかの2つの辺の2乗の和に等しい)
これを「じゃあ、3乗以上も同じなんかい?違うんかい?」という話になって、3乗以上は等しくならないよと証明したと言って中身を書かずに世を去ったのが17世紀のフランス人ピエール・ド・フェルマーさんです。
フェルマーさんが、わし証明したけど、余白がないから中身が書けないよ(=´∀`)
と言ってから360年間。
えー!じゃあわいが、わいが!わいが証明する!と天才たちが盛り上がるも、20世紀末まで誰も証明できなかったんですね。
で、1993年、イギリスのオックスフォード大教授のアンドリューワイルズさんが、150枚に渡る文書で証明に成功するにいたるまでの壮大な歴史ノンフィクションです。
面白いのは、ワイルズさんの物語だけでなく、いろんな天才たちが証明に情熱をかけてきていて、さらにフェルマーの最終定理につながる、さまざまな数学者たちのさまざまな定理や証明が登場する点です。
証明の成功にはワイルズさんが10歳からの夢を追い続けた情熱もあるけど、フェルマーの最終定理は、そんなさまざまな人たちの証明や理論が組み合わさって出来上がっています。
それで、著者のサイモン・シンさんが、この360年の歴史を非常にドラマチックに描いているんですが、さらにフェルマーの最終定理が生まれるもっと前段階の紀元前のピタゴラスやエウクレイデスにまで遡って、数学とはなんぞや、に迫っているのが、またロマンあふれ。
サイモン・シンさんが言うには、数学は、科学や物理学とは違って、予測や仮説を立ててそれを実証していくんじゃなくて、完璧な解があるものなんです。
だから、大部分がこう、とか、この場合はこう、とかは許されず、ゼロや無限に至るまでの絶対の真理があるんです。
その発見や証明にいたるドラマひとつひとつが丁寧に人間味たっぷりに描かれています。
とりわけフェルマーの最終定理の証明の下地となる楕円方程式とモジュラー形式の関連を予測した「谷山–志村予想」や、フランス革命後の混乱期に尾崎豊的生き様で早逝したエヴァリスト・ガロアの「群論」などはその中身は正直私には訳が分からないけれども、史実ながらとてもドラマチックで面白いです。
さらにさらに!
訳者の青木薫さんが後書きで言うようにサイモン・シンさんはインド系アメリカ人だからか、とかく白人ばかりを目立たせたがる欧米諸国のサイエンスの歴史、伝説のなかで、谷山さん、志村さんという日本人が大きな役割を果たしたことや、インド、アラビアで生まれた数字の確立や無限、ゼロなどの概念もしっかり取り上げています。
また4世紀のアレキサンドリアのヒュパティア(悲しくも惨殺されちゃう(涙))、18世紀のイタリアのマリア・アニェシ、エミー・ネーター、ロシアのソーニャ・コワレフスカヤ、フランス19世紀のソフィ・ジェルマンなど、天才数学者といわれながら、学位や活躍の場を与えられなかった女性たちのこともしっかり書かれてあり、なおのこと、数学史に深みをもたらしています。
この世に解がまだない、たったひとつの謎を、長い年月をかけて追い求める、ある意味、変わり者たちの果てなき夢。
あと、私自身は子供の頃、全く数学には興味が持てなかったけれど、数学も元を辿れば、子供が抱くようなシンプルな世の中のフシギやギモンから始まってるんじゃん?と思いました。
本来はとてもワクワクする学問なんだなぁ。。
なのに、何故に学校の数学の授業はあんなに面白くなかったのか。
ほんとそれも不思議。