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子育てと正社員の両立にぎりぎりな40代の母(映画・読書・日々のこと)

子育てしながら正社員として仕事しています。40代の母のブログです。コピーライター、読書、映画、プライムビデオ。育児の悩みや仕事の悩み、広告、マーケティング、家族のこと、ふと思うことを綴ります。

家族を想うとき_社会派の巨匠ケン・ローチを観る①

Huluです(*´ω`)
www.hulu.jp
2019 イギリス フランス ベルギー 

ネタばれあり。

Amazonは有料なら見れます。

家族を想うとき (字幕版)

家族を想うとき (字幕版)

  • クリス・ヒッチェン
Amazon

ケンローチ作品初体験です。
胸をしめつけられる衝撃!
なぜなら、これは私の家族の物語だからです。
(いつも以上の入り込み具合)

イギリスのニューカッスル
高校生の息子セブと小学生の娘ライザを育てるリッキーとアビー。
マイホームを持ちたいと、一念発起し
フランチャイズを利用して宅配便オーナーになったリッキーの労働時間は16時間。休みは週1日。

パートタイムで訪問介護士をしているアビーも、
朝7時半から夜の9時までびっしり利用者の家をまわります。

疲れ果てて帰ってきて、子供たちとのコミュニケーションもなし。
娘は優しくて一所懸命お父さんのお仕事のお手伝いしたり(パパと娘で宅配をまわるシーン大好き)するんですが
高校生のセブは、グレていくんですね。
公共物に落書きしたり、果てには万引きして。
で、怒ったパパにiPhoneを取り上げられて逆切れ。
家族写真にペンキスプレーして、家を飛び出します。

お父さんのリッキーがいかつい上司にネチネチとモラハラされながらも
休む間もなく過労気味に働いているのに、
セブのせいで
学校に呼び出されたり(結果2週間の停学)、
警察に呼びだされたり(警察官は来てくれた親に感謝しろって言ってくれたのに、セブまったく反省なし)
親にめちゃくちゃ迷惑をかけるんですよ。

で、それがなんでなんか?
親視点で見てると、私には分からなくて。
でもそれって我が家のことでもあって。

そうだ。このセブはほんとうちの娘だ。
だったらセブはなぜそうなのか?
それが知りたくて、じーっと見てました。

もうですね、ずっと切ない。
ふんだりけったりのリッキーは
最終的に仕事中に暴漢グループに襲われて
荷物を奪われ、ピってする荷物管理機械を壊され(弁償代が高いから壊すなよと散々上司に言われてるやつ)、
ギッタギタに殴られ顔を骨折して、
さらに、保険が全部利かないと上司に言われ
いろんな借金をこさえてしまうことになるのです。

いやいや、どんな保険はいらされとんねん。
傷害負わされて、5000ポンドの借金て!
ちなみに、5000ポンドは80万円ちょいですね。
セブが荒れ荒れだから、休みを1日ほしいと言っても罰金で1000ポンド。
日本円だと16万円ちょっと。
週休1日にプラス1日休みをとるのに、これが給与から引かれるの?
いや計算おかしない??
詐欺じゃない?この仕事。
PDFとかいう宅配便。


で荒れ狂う思春期セブ問題(わがお嬢問題)ですよ。

最終ね、お父さんが大けがしたから心配して家出からは帰ってきてですよ。
そこはやっぱり心配なんですね。息子君。
お父さんリッキーはホッと一安心するも、
借金・・・怪我・・・借金・・・怪我・・・と絶望に近い心理になっており、
なんと翌日、大けがしているくせにバンに乗って仕事に出ようとします。
そこにセブ現れ、「父さんどこ行くんだ?怪我しているのに仕事にいくな!」と。
立ちふさがるんです。
いいぞ!やっと愛を素直に伝えるんだね!
でそこでセブは語ります。
「前の家族に戻りたい。前の父さんに戻ってほしいだけなんだ」。

だってさ!
思春期わかりにく!!
それで万引きするん?
めちゃくちゃ親に迷惑かけるん?
甘えすぎじゃない?

でも。
でも、そうなんだろうなと。

きっと彼はお父さんやお母さんが大変な想いをして働いているのを
理解していないわけじゃないんでしょう。
だから、親に「働くな」とケチはつけられないわけで。
でもさ、それって何のためなんだよ?
俺がマイホーム欲しいつったか?
それよりも、家族みんなが笑って毎日過ごせればいいやん?
でも、マイホームのために、家族のために
ケータイの留守電でしか会話しない。
俺のことを誰もみない。誰も聞かない。
今日、俺がどんな1日を過ごしたか。
何を考え、何をみているか。

と、セブの心の声を代弁(個人的解釈です)しましたが
私は自分の反省を込めて、
こういう思春期の気持ちってのも、かつて自分にもあって、
それと同じなのではないか?と。

たとえばライザは素直にお母さんお父さんに甘えられるんですよ。
一所懸命、お手伝いしたりして喜ばせようともします。
誰がみてもとってもかわいいんです。
でもセブは、素直になれない。
どころか親に鞭打つかのように、めちゃんこ迷惑をかけまくります。
なぜ兄弟でこんなにちがってくるのか?

これはもう年齢だと思うんですね。
セブは思春期っていう。
自分を振り返ってみても、思春期って他者と自己が分かれてくる時期、
「私って何者」という気持ちが芽生える時期ですよね。
この気持ちの写し鏡として親をみたときに
「そうあってほしい大人像=自分がなりたい大人像」ではないわけです。
親も一人の人間なんだと、すぐに気づければいいんだけど、
自分のサンプルとして、いろいろ「いやいやいや~~どうよ?」という部分が
日々の生活のなかに、積もっていく。
「ちょっと親を否定する1回」が入ってくる。

たとえば、
いつも疲れている。
お金の心配をしている。
仕事のことばかり愚痴っている。
それ以前に、話す時間がない。
自分には勉強のこと、お小言しか言わない。
笑って過ごす時間がどんどん減っていく。
でもそれは「みんなの幸せのため」だっていうからなんも言えない。
結果これですか?
そんなんで親の苦労に素直に「感謝」なんかできません。

一方でなんだか中途半端な自分がいて、
行く先の不安や自信のなさでいっぱいだけど
でもそんな気持ちを「あんな親」には素直に言えないし、
しかも言って拒否されたら悲しすぎて許せないし。

そう。
やっぱり寂しいし、でもそれを素直に見せるには
ちょっぴり成長しちゃってプライドがあるのが思春期。

今ちょっとだけ見えたのは、
ケンローチ監督に見せられたのは、
ぶれながら成長しゆく子供の気持ちに寄り添うことの大事さと。
時間がかかるってこと。

尾木ママもいってましたけど、思春期は揺らぐんだと。
今日はまだ子供。でも次の日には大人。でもその次の日はやっぱり子供。
むかついた2時間後に爆笑もするし、さっきまで満たされていたのにもうイライラする。
そんな情緒不安定な自分を自分がいちばん持て余す。

ただこの作品の親子の姿に、子育て中の私の入れ込み具合がちょっと強すぎる傾向は否めずというか、
ケンローチが真に描きたいのは、「思春期の子育ての大変さ」ではなくて、
その背景にある「社会」なのではないかとは思います。

なぜ、お父さんお母さんが、法律で定められた8時間を超えてあくせく働かないといけないのか。
それが、あのフランチャイズ宅配便の仕組みだったり
訪問介護士の仕事が、人の下の世話まで扱うなかで時間に追われて、っていう部分です。

これ2019年の作品なんですけど、翌年の2020年にコロナが起こって
注目されたのが「エッセンシャルワーク」です。
そして、父リッキーと母アビーの仕事が見事にこのエッセンシャルワークです。
コロナ禍で、宅配便は仕事が激増したでしょうし、
介護は休むことができない「いまそこで困っている人」相手の仕事です。

ケンローチ、預言者
エッセンシャルワーカーの実情をこれでもかと見せつけたこの作品がコロナ前に世に出ていることに、
イギリスでは「ケンローチ・・・すごいっす!」と感涙した人たちもいたのではないでしょうか。

私もまさに、ブレイディみかこさんのエッセイで描かれていた「イギリスの現実社会」が
ケンローチの「家族を想うとき」にリアリティあふれる映像で描かれている!
と大きな感銘を受けました。

tsubatarou.hatenablog.com
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この作品にもみかこさんが語っているイギリスの人たちの「互助の精神」が見て取れるんです。
介護士をしているアビーなんか、「どんな利用者も自分のお母さんだと思ってケアする」という
ものすごい崇高なスピリットがあって、仕事に誇りをもってるんですね。
仕事上の理不尽に怒るアビーに、バス停で居合わせたおばちゃんもやさしく声をかけたりして。

ケンローチ監督は、こういった個々の人間にある実直さや市井の人々の助け合いはしっかり描いていて
同時に、国や経済の構造(宅配便FCのシステムなど以下同文)のおかしさ、エグさを描くので
この対比には嫌悪感が生まれるほどゾッとさせられます。

「あ、ケンローチ氏は“社会の理不尽”に怒っているんだ」とは感じました。
同時に、底辺層からのまなざしが絶対にぶれないので、
というかもう100%そっち側の味方なので、
こんな監督がいるイギリスはやっぱりすごいなあとも思います。

たまに思うんです。
どれだけテーマが深い作品でも、何かを描く場合に、「経済」ということを抜いてしまって
本当にそれは真の人間の姿なのだろうかと。

たとえば、私はベッタベタのアメリカのドラマが好きなんですが
どっちかというと、舞台が「お金がある世界」が多いんですよね。
日本のドラマでもそうかも。
そらそうか、とも思います。
貧乏で余裕なく暮らしているしみったれた庶民の日常を描いて何が面白いん?ていうのも分かる。
自分もそう思うから。

そこにきて「パラサイト」やら「万引き家族」やら底辺視点の作品がにわかに出だして
これって格差社会という時代の流れもあるんでしょうが、
でもケンローチって、60年代から、底辺世界を徹底して描いてきた監督さんらしく。

だって、そら60年代だろうと、そのもっと前だろうと、今だろうと
底辺の苦しみや物語は存在していたわけで。

そんなわけでもう御年86歳だそうです。
この作品は3年前だから83歳の時の作品。
えー-!すごくないですか?

あとそう!
私が観ていてす~っと心に浮かんだのは倉本聰さんの「北の国から」とあと山田洋二監督の「息子」とか「学校」とか。
このお二人は年齢的にはケンローチ氏よりちょっと上かな。
でもまあ、同世代っちゃ同世代。

でももうそろそろ後進が活躍しないといけないですよ。
アラ90に現役させてちゃだめじゃん。
イギリスにも「ケンローチを超えた社会派監督」登場すること期待してます。
(もういるのかな?)

あ、あとこれ見て「イギリスは日本よりお父さんの子育て当事者意識は高いな」とも思いました(我が家比較)
リッキーはセブとぶつかってはいるんですが、それはその分、リッキーが子育てにめっちゃ参加してるからだし、それが当たり前なんですね~~。

それと結末ですが、分かりやすいハッピーエンドではない、、というか「あとは想像に。。。」と観た人にゆだねる感じです。
でもこのゆだね方は私は正解だと思います。