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子育てと正社員の両立にぎりぎりな40代の母(映画・読書・日々のこと)

子育てしながら正社員として仕事しています。40代の母のブログです。コピーライター、読書、映画、プライムビデオ。育児の悩みや仕事の悩み、広告、マーケティング、家族のこと、ふと思うことを綴ります。

赤の他人だから、救えることがある

 

52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

 

「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ 2020

 

孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれるー

という帯だけの前情報で読み始め、冒頭だけ読んですぐ、なんや王子に出会うシンデレラチックな若い女子の話か〜と先走って、ハイハイ(*゚∀゚*)みたいにタカをくくってたら、中盤から、次から次に起こる出来事が刺さりまくって、涙か止まらなくなりました。

 

若い女子ですが、全くシンデレラではないです。

面白くて一気読みしました。

ちょいネタバレ。

 

この物語は、傷ついた子供が、大人になり、別の誰かを救う連鎖で成り立っています。

 

救いの前にたくさんの痛みと哀しみと絶望も出てきます。

 

母親が再婚し、弟が生まれたことをきっかけに、成人になるまで邪魔に扱われ、傷めつけられ、なのにただただ母親の愛だけを求め奴隷のように生きるしかなかった主人公のキナコ。

 

身体中虐待のあざだらけで、話すことができない、母親と祖父から「ムシ」と呼ばれる少年。

 

キナコを母親から救いながらも、自分を不完全と語り、また自分自身も善良な母の愛という呪詛に苦しめられるアンさん。

 

そして、アンさんがキナコを救い出すシーンに目頭が熱くなり、今度はキナコが虐待を受ける少年を、どうやって救うのか、ずっと気になって読んでいました。

 

キナコは彼を救うことができるのか?

 

キナコ!

 

このアンさんとキナコが生み出す救いの連鎖がすっと入ってくるといいますか、物語の背景やつじつまとしても、またキナコという人物の心の変化としても、割と苦痛を煮詰めた激しめの展開の中にあって、無理なく自然な流れで読めました。

 

一人称で事実ベースの叙述もいいのかも。

 

でも、筆運びの軽妙さ以上に、私がこの物語に惹きつけられるのは、これが決して非現実的な救いの物語ではないと思うからです。

 

ニュース見てると、虐待で死ぬ子供があまりに多い気がします。悲しい事件は世の中が貧しくなり、荒んでいくほどに増えます。

 

しかも虐待は、ニュースの中だけじゃなく、今もしかしたら自分ちの近くに暮らす子供のことかもしれない。とにかく外から見えないのが虐待とDV。だから他人への暴力より、やっちゃダメのハードル下がるし、それってほんと、どうやったら防げるのか。

 

確かに、暴力や虐待、無知や差別は、全部が全部、世の中からなくならないかもしれません。

それが社会かもしれません。

 

でも。

 

絶望を味わってその後救われた人間が、絶望にいる人間をまた救う。

 

いや、あるでしょ!

それが人間だとも思うのです。

 

特別に性善説を好むわけではないですが、私の知る人には、自分も、子供が苦しむのを見たい人はいないから。

 

一度死んで、生き残ってひとりで生きる覚悟したキナコが、少年と一緒に暮らす、一緒に生きていくという選択をしたのは、私はなんらおかしい事ではないと思います。

 

赤の他人が、虐待を受ける子供の家庭に介入するのが難しいことは、見聞きして知っていました。

 

現実には、行政がなかなか、そっか!いいよーとはすんなりならず、少年との関係を肩書き的にどうするのかとか、実母許可するー?とか、なかなか厳しいとも思うし、物語にもそれは出てきます。そして現実的な対処法を提示しています。

現実的な対処法が出てきて嬉しかったです。

 

世の中は法律を中心に血縁を重視する仕組みになっていますが、私は個人的には血のつながりが何かいいことをもたらす事ってそんなにないんじゃないかと思っています。跡継ぎとか財産分与とかでも、だいたい骨肉に争いがちですよね。

 

そもそも家族の最小スタイルである夫婦は元は他人です。世の中は、基本、他人で成り立っているわけです。

他人同士に婚姻とか、戸籍とかの社会的なルールで契約をさせて、それを血縁で繋げていく。まあそれは正味、社会的な便宜を考えたルールにすぎないとも言えるわけで。

血がつながってても、一個人としては、自分じゃない人=他人だし。じゃ、元は他人の親子があってもいいし、昔娘だった息子を持つ親になってもいいわけで。

 

もし世の中がもっと、「家族ってそもそも他人やで」という事実に価値を見出して、人と人との関係に名前をつけずに、人と付き合ったり、繋がったりできる雰囲気があれば。

 

アンさんは苦しまずに済んだかも。

 

虐待されている子供を「他人が救う」サポートシステムがあれば。

あと、近所の大学生や電車でたまたま子連れと乗り合せたサラリーマンまで、普段子供との関わりが少ない人が参加しやすい仕組みがあれば。

 

虐待を止める、虐待にならない多様なつながり方で救われる小さな魂がたくさんあるかも。

 

だからこの物語は、そんな赤の他人がただただそこに消えそうになっている魂を見つけたから、戸籍も血縁もないけど救いだすんだっていう、私の理想の社会のお手本。

 

しかも、今ある社会のルールで実現できることを示唆してくれていて、素晴らしいなぁと。

 

家族もですが、他人同士も、子供って面白いなぁと思える「ゆとり」が、コロナのこの先に、どうか、どうか失わずに、広がっていますように。

と他人である我が子の寝顔を見ながら、祈ります(´∀`*)

 

あ!あと、ついてる栞がステキ!

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ちなみに2021年の本屋大賞1位でーす。