2013 文藝春秋
悲しいとき、自分の気持ちをどのように扱えばいいか分からない。そんなときは村上春樹はいかが?
ああそうか。村上春樹は、悲しみを書いているんだと、初めて深く理解できた気がしました。
これまでいくつか村上春樹を読んできて、今やっといちばん深いところに届いた気がします。
数年前に読んだ「1Q84」は、子供の描写がどうやっても受け入れ難くて、ああ春樹よ…と遠い存在になりかけていたので、「色彩のない多崎つくる〜(以下、多崎つくる)」でまた近づけたのは喜ばしい限りです。
「多崎つくる」は、"春樹節"が薄めというか、現実と幻想と時間軸のグラデーションがわりとくっきりしているというか、「村上春樹って訳わからーん」という苦手な人にも読みやすいのでは。
私が好きな、ねじ巻き取りクロニクル、スプートニクの恋人、ノルウェーの森に空気が近い感じがしました。いやどれも春樹節は濃いか?
あとね、久々に村上春樹を読んで、春樹さんの文章にすごく感じたのは、一つずつの文章は小学生でも理解できるくらい読みやすいってこと。難解でもなんでもなく、こんなに分かりやすいのかと筆力に改めて感銘を受けました。
そして基本、春樹さんが描く物語の主人公はみな孤独です。「多崎つくる」も、主人公・多崎つくる君の孤独や心の傷が率直に描かれていて胸に染みました。
静寂の世界で、周りと馴染めなくて、生きていることに傷ついていて、大事なものを喪失して、何も信じられないような世界に愛を求めもがく。
そこに、お高そうな酒やオーセンティックなバーや難解な音楽がオシャンティーに登場したりして確かに鼻につくんですが(笑)、嫌いじゃない。決して嫌いじゃないですよ、私は。
むしろ好きな訳で(*´∀`)
村上春樹さんの絶妙な感性に惹かれるのです。
現在36歳の多崎つくる君は、20歳の頃、深く信頼しあって心を通わせた高校の親友たちに突然関係を断ち切られるという傷を負います。大人になったら見えないフリして通り過ぎてしまうような、あの頃感じたものを、受けた影響を、軽んじることなく今の問題として解き明かしていく姿勢が真っ直ぐで、読んでいて小気味良いです。紙面に広がる素直で率直な言葉のやりとりに、見栄や意地や沽券にあふれた騒々しい現実の不自由さ、まわりくどさ、煩わしさから解き放たれて、ぐいぐい読めました。
結局なぜ私は村上春樹を読むのか?読みたくなるのか。、主人公の気持ちに近づいたかと思うと急に突き放されたりしつつ、人の心の在り方をとても素直に忠実に描くからだと思います。
ずっと読んでいたかったけど、読みやすいから、3日で終わっちった。もっと読みたーい(*´∀`)
さああなたも村上春樹で、孤独に真っ直ぐ向き合ってみませんか?
追記
村上春樹が前より近づいたのは、私がここ数年の父や祖母の死を通して身近な人の死による虚無感を前より理解できるから、ってのもある気がします。ふとした時に世界とちょい距離を置いてしまう感じというか。どうせ死ぬんだと言ってしまえば身もふたもないですが、もしかしたら村上春樹さんはずっと喪失の悲しみを背負ってきた人なんかな、なんて想像してしまいました。。